作者は情景を思い浮かべながら絵や文を書き進めます。
【例文1】
”何時もより酒を過ごしたらしい。ふと目を覚ました目の前には酔い潰れた仲間が気持ち良さげに寝息を立てている。窓を開けて外へ踏み出す。夜半、冷気が肌を刺し天頂近くに昇った月は蒼い光を投げかけている。”
”「ああ、今日は下弦か」”
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ちょっと待って下さいそこの絵描き文字書きさん!!!
上の例文1を読み進めて台詞に「下弦」が登場するやガックリする読者は多いはずです。
なぜなら、下弦の月が南中する時刻には太陽が東の地平線に迫っている(季節によって日出時間は±1時間程度異なります)事を身体が知っているからです。
夜更かし仕事に就いていたり朝がかなり早い人でなければ南中した下弦の月を観察する機会は少ないのですが、人間も地球上に長く生存しただけあって体内時計や生存本能、方向感覚が多少なりとも働きます。このような時刻や方角をたどる文章の逸脱には、一瞬にして「あれ?」っと違和感を生じるのです。
例文1(台詞の手前まで)から読み取れる事は概ね次の通りです。
(1)季節は晩秋から冬=月が天頂近くまで上がっている
(※ただし南半球なら6月頃なので注意。赤道近辺は別感覚。以下北半球、特に日本基準で記述しますよー)
(2)周囲はまだ夜闇が深い=月光で辺りが照らされている(これは半球関係ない)
(3)月はやや太いor真ん丸=半月より細い月が南中に近い時刻なら夜闇にはならない(これも半球関係ない)
読者は無意識の内にも作品に本能を重ねながら読んでいるのです。理屈はさておき「なにか違う???」と、それまでの文章で頭に思い浮かべた情景が崩れてしまうのです。また、絵ならてきめん「なんかおかしい!」と感じるでしょう。(例絵UPしてませんが)
【例絵2の情景】
”敵陣に奇襲をかける刻(とき)が来た。息詰まる子刻。細い月が山際に掛かろうとしている。”
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かからないから!!!
真夜中24時、さあ奇襲をかけるぞ!って緊迫感溢れる場面の背景に地上すれすれの細い月を描いちゃダメです。一気に白けます。細い月は太陽の近くに位置しているので、真夜中の空には在りません。
前置きのつもりがほとんど本文になってしまいました。
この講座は「知っておくとグっと情景がひきしまる」天文ワンポイントとして脳裏に収めていただけると幸いです。地球上、あるいは太陽系地球とほぼ同じ環境下で展開するお話を描いたり書く場合に背景となる自然法則です。もちろん作品内で法則をハズしても間違いというわけではなくて、ファンタジーとして堂々と描くのは全然問題ないので、自然法則を踏まえた上で上手く逸脱させて幻想的な作品を創り出してほしいなと思います。
では地球地上から観察する太陽と月の位置を見てみましょう。